資金繰りを改善する方法の1つに「前受金」モデルの導入があります。しかし、経営管理が杜撰であると、これは大きなリスクを背負うことにつながり、かえって将来的な資金繰りを悪化させてしまいます。
前受金
前受金とは
前受金とは、サービスや商品を提供する前に顧客から先に受け取る代金のことです。これは、まだ提供が完了していないため、貸借対照表の負債として計上されます。例えば、回数券の販売や年払い契約、クラウドファンディングのリターン費用などがこれに該当します。
前受金の資金繰り上の優位性
前受金は、事業者が将来の売上を先取りして現金収入を確保できるため、短期的な資金繰りの改善に非常に有効です。この資金を運転資金や事業拡大の原資として活用することで、成長の加速も期待できます。
前受金のパターン
回数券
回数券は、複数回の利用権を事前に販売することで一度にまとまった収入を得られる仕組みです。例えば、フィットネスジムの回数券が代表例です。
手付金
手付金は、長期プロジェクトなどの初期で発生する入金です。不動産の売買等で活用されます。
年払い
年払いは、1年間分の料金を一括で受け取る契約形態です。サブスクリプションサービスなどで多く採用され、事業の資金繰りを安定させる手段として有効です。
クラウドファンディング(購入型)
購入型クラウドファンディングでは、支援者から事前に資金を集めてプロジェクトを実現します。この場合も、まだリターンが提供されていない間は前受金として計上されます。
前受金の期中管理の重要性
前受金は、商品やサービスの提供タイミングが来るまで、適切に分別管理されている必要があります。
前受金を適切に管理する方法の例
そもそも前受金として計上されていることを前提に、以下のような方法で管理する方法があります。
- 専用口座の利用
前受金を他の収入と区別して管理する。日常的な入出金口座と同じ口座で管理していると、なしくずし的に分別ができなくなることがあります(特に資金繰りが逼迫してきたタイミング)。第三者からの透明性を担保するために信託口座を使う例もあります。 - 提供義務を把握
サービスや商品の提供スケジュールや残数を明確に管理する。どのタイミングで商品やサービスを提供するか、、また、どの顧客がどのくらいの残数(商品やサービスの未提供数)を抱えているかを明確にしておきます。また、回数券等の使用期限を明確にして管理し、使用期限が経過した分については収益として認識します。
前受金を使い込むリスク
前受金を適切に管理せず使い込むと、サービス提供時に必要な原資が不足し、資金繰りが逼迫する恐れがあります。また、事業の信頼性を損なうだけでなく、最悪の場合、法的トラブルに発展するリスクもあります。
前受金の返金や払い戻しについての国民生活センターの見解
「前受金(回数券等)については一切返金しない」旨を規約に記載しているから大丈夫、とお考えの方もいるかもしれませんが、国民生活センターの消費者トラブルFAQによると、以下のような見解となっています。
Q.【整骨院】腰痛で回数券を購入。未使用分を払い戻ししてほしい。
A.回数券の払い戻しは、原則、約款等に従うことになります。「一切返金できない」など消費者の利益を一方的に害する条項は、無効となる可能性があります。約款等がなく、自己都合で解約する場合でも、事業者との合意により解約することができます。上記を参考に、事業者と話し合いましょう。(消費者トラブルFAQより)
前受金を使い込んで社会問題となった事例
株式会社てるみくらぶ 旅行業 負債総額151億円
はれのひ株式会社 貸衣装業
はれのひは、1月8日の成人式当日に突如、事業を停止し、振袖を購入やレンタルしていた新成人を中心に多くの被害が生じた。
売上か前受金か
前受金は、本来、サービス提供や商品の引き渡しが終わるまで貸借対照表(B/S)の流動負債に計上すべきです。
しかし、実態としては、入金になったタイミングでその全額を売上に計上している中小企業は多く存在します。
前受金に関する会計上のルール
入金に対する会計処理
- 前受金:まだサービスや商品を提供していない段階で受け取るお金。負債として計上。
- 売上:サービスや商品の提供が完了した段階で初めて収益として計上。
例1)5回分の回数券10,000円を販売し、うち1回分は購入日に消費した
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 10,000 | 売上 2,000 |
前受金 8,000 |
例2)5回分の回数券10,000円の2回目を後日消費した
借方 | 貸方 |
---|---|
前受金 2,000 | 売上 2,000 |
このように、前受金を売上に計上するタイミングは、サービスや商品を実際に提供した時点です。
現金主義会計であれば売上計上できる?
現金主義会計を採用していても、前受金に計上しなければなりません。
前受金に計上せず、売上に計上するリスク
上記の正しい会計処理ではなく、入金のあったタイミングで全額を前受金に計上しているケースがあります。
しかし、それにより3つのリスクを背負うことになります。
- 将来の資金繰りリスク
前受金ではなく売上に計上してしまうことで、将来、商品やサービスの提供をした際には売上を立てることができません。しかし、費用はかかるため、損失が生じることになります。これが常態化すると資金繰りを圧迫します。また、将来的に金融機関から適切な会計処理(決算修正)を求められた場合、多額の損失を計上する可能性もあります。 - 見えない負債を背負うリスク
回数券や年払いは、解約時に返金することが一般的です。契約書で返金しない旨をうたっていたとしても、それは顧客都合に限られると考えるのが通常です。商品やサービス提供が会社都合でできなくなった場合は返金義務が生じます。前受金に計上していればきちんと返金額を管理できますが、売上に計上してしまうとどこにも管理されず、見えない負債となります。 - 納税金額が増加するリスク
売上と利益が本来よりも多くなるため、前受金の中から納税をする必要がでてきます。本来であれば将来払えば良かった税金を先払いすることになります。
まとめ
「前受金」は、資金繰りの改善には非常に有効ですが、適切に管理しなければ、事業の継続を危うくするリスクが伴います。会計の基本原則を遵守し、資金管理を徹底することで、前受金を効果的に活用できるよう心がけましょう。
前受金をきちんと管理するには
前受金の管理は高度なシステムは必要なく、日頃の集計やチェックで可能です。「前受金の管理方法を分かりやすく解説;管理表フォーマットをExcelでダウンロード可」にて解説します。