決算状況が悪い場合、売上を過大に計上することで見た目をよくしようと考えるかもしれませんが、これは必ず発覚し、粉飾決算先として信用を落とすだけでなく、法的なリスクもあります。
架空売上とは
架空売上とは、実際には存在しない取引をあるように装い、企業の売上を水増しする不正行為です。その架空売上分の入金がないので、入出金と決算書を照らし合わせれば粉飾であることは簡単に分かりそうですが、実務上はそう簡単ではありません。
なぜなら、完全な入出金と決算書を照らし合わせるには、1つの金融機関で入出金が完結しており、かつ決算書を提出していることが必要だからです。
しかし、入出金がなくとも、決算書をきちんと見られると、粉飾であることは見抜かれます。
複式簿記では架空売上の相手が必要
なぜなら、企業決算は複式簿記によって作成されているため、売上の相手方としての勘定科目が存在するからです。よく架空売上の二次的な処理相手となる架空在庫、架空現預金、架空売掛金について以下で解説します。
架空売上の二次的処理が貸借対照表(B/S)に表れる
架空在庫の場合
概要:架空売上を計上したが、実際には商品が出荷されていないため、帳簿上「在庫が残っている」ことにして不正を隠します。売上として商品が動いたように見せかけながら、実際の商品が存在しないため、在庫が増加した形になります。
これは特に製造業や卸売業で見られる手法です。
例えば、ある食品製造会社が、実際には出荷していない食品1000個(単価1000円)を販売したことにして、売上を100万円増やします。しかし、実際には商品が出荷されていないため、以下のように処理します:
- 売上高:100万円増加。
- 在庫:出荷されていないため、棚卸資産として帳簿に100万円分を「未出荷商品」と記録。
この結果、棚卸資産が過大に計上されます
架空在庫の発覚
実地調査をされると、架空在庫は発覚しますが、じつは容易ではありません。なぜなら、中小企業が銀行に決算書を提出するのは、一般的には決算日から2ヶ月程度経過しているためです。したがって、期末に計上されていた在庫の一覧をもって実地調査に臨んでも、現品の確認はできなくて当たり前だからです。
そうしたことから、架空売上の相手方が架空在庫となっているケースは多いです。
しかし、実地調査のやり方により、架空在庫であることは見抜けます。実地調査時点(どこかの月末)での在庫一覧と現品確認を実施しておき、その月の合計残高試算表が出たら突合して確認すればよいからです。
また、架空在庫が複数期で積み重なると、棚卸資産回転率(または棚卸資産回転期間)に異常値が出ることで発覚する場合もあります。
架空現預金の場合
概要:架空売上を計上し、その代金が「既に回収済み」として帳簿上で現金や預金が増えたように見せます。実際には入金がないため、現預金の帳簿残高が実態と合わなくなります。
例として、あるIT会社が、実際には存在しないプロジェクトの代金として、架空顧客から500万円の売上があったことにします。そして、その代金がすでに支払われたことにして以下のように処理します:
- 売上高:500万円増加。
- 現預金:500万円増加(帳簿上)。
結果として、売上と利益が水増しされるだけでなく、現預金水準も水増しされるので財務状態が優良に見えます。
架空現預金の発覚
架空現預金はきわめて簡単に発覚します。決算日に保有している全預金口座について、残高証明書の発行を求められる場合が代表的です。その他、日々現預金残高を追いかけている経理社員からの内部告発もあり得ます。
残高証明書の合計金額と、現預金残高に差異がある場合、「現金で保有していた」と言うしかありません。しかし、よほど特殊な業種や事業形態でもない限り、多額の現金を保有していることなどあり得ません。
架空売掛金の場合
概要:架空売上を計上したが、代金が「未回収」であるように装い、売掛金を帳簿上に記録します。架空の顧客を作成して取引を記録する場合と、実在の顧客を利用して虚偽の売上を作る場合があります。
例)ある建設会社が、実際には存在しない工事を「B社向けに受注・完了した」として架空売上2000万円を計上します。代金はまだ回収されていないという形にして以下のように処理します:
- 売上高:2000万円増加。
- 売掛金:2000万円増加。
結果として売上と利益が水増しされます。
架空売掛金の発覚
架空売掛金は勘定科目明細から発覚します。または、発覚しなくても、将来的に貸倒損失という形で損失を出さなければならないため、その時点で財務的なダメージを受けます。
売掛金の金額上位については、勘定科目明細として決算書の添付資料として提出することが一般的です。ここに並ぶ企業は、金融機関によって信用状態をチェックされますので、架空の企業であれば即座に疑いがかかります。
実在している企業であっても、金融機関が側面調査をすることで発覚することもあります(当社と取引があるかの確認などをする)。
加えて、架空在庫と同じ様に、売掛金回転率(または売掛金回転期間)という指標に異常値が出ることでも発覚します。
架空在庫・架空現預金・架空売掛金に分散するのは実務上難しい
粉飾事例では、架空在庫・架空現預金・架空売掛金に分散して処理していたケースもあります。分散することで、科目ごとには実態との乖離を減らし、また、財務指標の異常値も出にくくなります。
しかし、こうした処理は、会計に精通している社員がいなければ継続することができません。本当の決算のほかに、粉飾決算を作成し(二重帳簿)、それを維持するのは並大抵の技量と根気が必要です。
そのような社員であれば、転職市場では引く手あまたであり、わざわざ粉飾しなければならないほど台所事情の苦しい会社に居続けることはないでしょう。粉飾がバレれば自信のキャリアを失うどころか、法的リスクも背負います。
したがって、分散処理は実務上不可能であるといえます。
架空売上は百害あって一利なし
架空売上を計上して一時的にしのげても、どこかのタイミングで必ず発覚しますし、一度そうした粉飾に手を染めてしまうと後戻りもできません。誘惑に負けず、踏みとどまることが懸命です。