融資を受けたいけれど銀行や金融機関から直接借りられない、そんな状況に直面している方もいるかもしれません。このとき、知人が経営する優良企業を通じて「又貸し」をしてもらう方法を思いつく人もいるでしょう。しかし、これには大きなリスクが伴います。
※本記事では知人の会社は「商取引のない会社」という前提で書いています。
「融資の又貸し」=迂回融資
迂回融資とは
「迂回融資」とは、本来の借り手が直接資金を調達できない場合、第三者を介して間接的に資金を受け取ることを指します。
例えば、あなたの会社が信用不足で銀行から融資を受けられない場合、財務優良な知人の企業が銀行から借りて、そのお金をあなたに貸すケースです。一見問題がないように思えるかもしれませんが、法律的にも経済的にも問題が生じる可能性が高い行為です。
迂回融資がマネーロンダリング(資金洗浄)に該当する可能性があるのは、資金の流れを隠蔽し、不正な目的で利用する場合があるからです。このような行為は、関連する法律に違反する可能性があります。以下にその法的根拠を挙げて説明します。
金融機関は、「転貸資金」は貸さない
原則として、銀行などの金融機関は、転貸資金は貸出しません。銀行が転貸資金を貸さない理由は、主に以下の点にあります。
- 信用リスクの増加
銀行は融資先の信用力や返済能力を審査して融資を行います。しかし、転貸を目的とした資金は、実際に使用する最終的な借り手の信用力を直接把握することができません。その結果、銀行にとって不透明なリスクが生じ、貸倒れの可能性が高まります。 - 資金の使用用途の不明確さ
銀行の融資契約では、資金の使用用途を明確にすることが求められます。転貸資金の場合、用途が具体的でなくなり、契約違反や不正利用のリスクが増加します。 - 法的・規制上の問題
転貸は、資金が不正な用途や犯罪行為に使われる可能性を排除できないため、金融機関の内部規定等に違反する可能性があります。
迂回融資がマネーロンダリングと見做される可能性
マネーロンダリングとは、不正な手段で得た資金(犯罪収益)の出所を隠し、合法的な資金のように見せかける行為を指します。これには、犯罪行為に関与していない者や企業を利用して資金の流れを隠す手段が含まれます。
日本における法的根拠
- 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯罪収益移転防止法)
- 第2条では、犯罪収益の隠蔽や収受を目的とする行為を規定しています。
- 迂回融資が、不正な目的(たとえば、犯罪収益を隠すため)で行われた場合、この法律に違反する可能性があります。
- 「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(組織犯罪処罰法)
- 第9条では、犯罪収益を隠蔽、移転、または受領することを禁じています。
- 迂回融資を通じて、資金の出所や最終的な使途を隠す行為は、この法律に基づいて処罰対象となる可能性があります。
- 金融機関との契約違反による違法性
- 金融機関からの融資は、使用目的が契約で明確に定められていることが一般的です。迂回融資を通じて資金の用途が偽装された場合、契約違反に加え、金融機関を欺いたとして詐欺罪(刑法第246条)に問われる可能性があります。
知人企業のリスク
知人の企業が財務的に優良であったとしても、「又貸し」を行うことには次のようなリスクがあります。
- 資金使途違反の可能性
銀行などの金融機関の審査においては、通常、資金の使用用途(資金使途)が明確にされています。資金使途に違反すること(例えば運転資金として借りたが、実際は転貸資金である場合)は、銀行の信頼を大きく損ねます。資金使徒違反をすると、当該融資の早期返済や追加担保等を求められるだけでなく、将来的な融資審査においても不利益を被る可能性が高いです。 - 信用リスク
あなたの会社が知人の会社に返済できなくなった場合、知人の会社は不良債権を抱えることになりますが、知人の会社が銀行などの金融機関に返済しなければならない点は変わりません。知人の企業がこれによって信用状態が悪化したり、連鎖倒産になるリスクもあります。 - 法的リスク
迂回融資は金融規制の回避や資金洗浄(マネーロンダリング)とみなされる場合があります。その結果、知人企業も法的な責任を問われる可能性があります。
結果的に実質「迂回融資」になることも好ましくはない
はじめから「迂回融資」としてあなたの会社に転貸するために借りたわけではなくても、とある期の貸借対照表(B/S)で見たときに、明らかにあなたの会社の転貸に使われている、と見えることも好ましくありません。
知人の会社が、銀行から長期的・継続的に融資を受けている場合はそう見えることもあるので気を付けましょう。
迂回融資ではなく、知人の会社から保証差入を
迂回融資を頼むほど関係性が深い会社であれば、連帯保証の差入をしてもらうこともひとつの選択肢です。
しかし、連帯保証は知人の会社にとってもリスクが高く、話を受けてもらえるかは分かりません。
- あなたの会社と知人の会社の関係性の悪化リスク
返済が滞った場合、知人の会社に責任が降りかかり、知人との信頼関係が壊れるリスクがあります。お金のトラブルは人間関係に深刻な影響を及ぼします。 - 知人会社の信用リスクが高まる
知人の会社が連帯保証を引き受けることで、財務リスクが増加し、その会社自体の信用力が低下する可能性があります。これにより、他の取引先や金融機関との関係に影響が出る場合もあります。
連帯保証について詳しくはこちらの記事をご覧ください