銀行や信用金庫といった金融機関は、資金使途を重視します。
なぜ資金使途が重要視されるのか?
適切なリスク評価のため
資金使途は、借入金がどのように使われるかを示す重要な情報であり、融資リスクの評価に直結します
- 適切な使途:事業成長や効率化に貢献する用途(例:設備資金)は収益性が期待でき、返済能力が高まる可能性があるため、金融機関にとってリスクが低いと判断されます。
- 不適切な使途:曖昧な用途や高リスクな投資(例:無計画な事業拡大)は返済不能リスクが高まるため、慎重な判断が必要です。
資金使途によって返済のロジックが違うため
資金使途によってその返済原資(どこから生じるキャッシュ・フローで返済するか)が異なり、回収可能性が変わります。
- 運転資金:商品の販売収益や日常のキャッシュフローが返済原資となる。基本的には短い期間の立替資金であり、回収可能性が高い。
- 設備資金:導入後の効率化や収益増加が返済の源泉となる。設備の内容によって回収可能性が異なる。
- 赤字資金:損失の穴埋めの資金であり、基本的に回収不可能であり高リスク。返済を受けるには、事業が改善するか資産を売却する必要がある。
詳細は以下の代表的な資金使途で確認してください。
代表的な資金使途
以下に代表的な融資の資金使途を、その返済原資とともに挙げます。
適切な資金使途
経常運転資金
概要:日常的な事業運営に必要な資金で、主に仕入と在庫の見合いで利用されます(金融機関によっては給与、光熱費などの経費も許容される)。また、月商の1〜3ヶ月分程度は手元資金として、月内の収支ズレ対策として許容されることが多いです。例えば、支払と入金が同じく末日になっていると、入金の方が支払より遅い時間になったら振込できないといったことを避ける目的があります。
どのくらいの運転資金が許容されるかは、所要運転資金という指標があり、以下で計算されます
所要運転資金= 売上債権 + 棚卸資産 ー 仕入債務
返済原資:営業収入。営業収入とは、商品・サービスの売上代金の入金ということです。
好ましいか:事業継続に必須であり、健全な運営が期待できる限り、銀行にとっても好ましい資金使途です。
売上増加運転資金
概要:売上増加や新規顧客対応に伴い、必要となる追加資金です。売上のためには、仕入や製造(在庫)が先行するため、業績が急伸していると、資金が追いつかなくなります(勘定合って銭足らず)。
返済原資:営業収入。
好ましいか:業績伸長しているため、一般的に好ましいです。ただし、一過性のブームに乗っての売上増加運転資金には注意が必要だと言われています。
季節資金
概要:月によって売上が大きく変動する業種(例えばスキー場経営など)では、売上が上がる月(繁忙期)の前に準備資金が必要です。ここで用いられるのが季節資金です。
返済原資:営業収入。繁忙期が終わり、閑散期に入ったら返済されます。
好ましいか:原則1年以内の期日の資金となり、一般的に好ましい資金です。
決算賞与資金
概要:決算支出(ほとんどは納税)や従業員へ支払う賞与のための資金で、まとめて決算賞与資金(決賞資金)と呼ばれます。通常、これらは利益の一部を支払うため、本来的には必要ありませんが、月によって売上の変動が大きい業種などでは特に多く用いられています。
返済原資:営業収益。利益の一部から返済されるものとされています。
好ましいか:本来的には必要のない資金ではありますが、一般的に用いられています。返済期間が6ヶ月以内になることが原則です。
設備資金(新規設備)
概要:新たな機械や施設を導入し、事業拡大や効率化を図るための資金です。例として、製造業で最新型の機械を導入する場合が挙げられます。
返済原資:設備導入による増加収益やコスト削減分。
好ましいか:成長性が見込まれるため、一般的に好ましい資金使途ですが、設備導入後の収益増大幅については検証が必要です。
設備資金(改修)
概要:既存設備の改修や更新に必要な資金です。例えば、老朽化した店舗の内装をリニューアルする場合に利用されます。
返済原資:改修後の収益改善や維持した売上。
好ましいか:既存事業の継続が目的のため、既存の事業で安定収益が見込まれる限り好ましい資金です。
不動産購入資金(収益物件)
概要:賃貸収益を得る目的で収益物件(マンション、商業ビルなど)を購入するための資金です。
返済原資:賃貸収入から生じる利益。
好ましいか:物件の収益性や立地条件が良ければ好ましい資金使途です。ただし、不動産市況や金融機関の方針によっては忌避されることもあります。
不動産購入資金(収益物件以外)
概要:自社利用を目的とした不動産(オフィス・保養所など)を購入する資金です。それ自体ではキャッシュ・フローがプラスにならないため、本業からのキャッシュ・フローでの返済が必要です。
返済原資:本業の営業収益。
好ましいか:財務状況が良好で、業績も安定的な優良先に限定されます。
投融資資金(事業性)
概要:他社への投資や資本提携、M&A、子会社設立のための資金です。
返済原資:投資先の収益や資産、既存事業の営業収益。
好ましいか:既存事業が優良であり、かつ投資先の収益性や資産性が高い場合は好ましいです。
肩代わり資金
概要:他の金融機関から借り入れている既存の借入金や債務を、新たな金融機関からの融資で返済する資金です。
返済原資:被肩代わり債務の当初の資金使途に準じます。
好ましいか:優良先への肩代わりは好ましいですが、そうでない場合は好ましくありません。
創業資金
概要:新規事業の立ち上げに必要な資金です。運転資金と設備資金をあわせて創業資金とする場合が多いため、比較的自由度が高い資金と言われています。
返済原資:創業後の営業収入+営業収益。
好ましいか:金融機関の方針によります。積極的に創業融資を実施している場合もあります。
不適切な資金使途
以下の資金使途は原則、審査は通りません
投融資資金(投資性)
概要:上場株や未公開株への純投資や運用商品の購入資金がここに含まれます。利回り収入で返済することは現実的には不可能なため、売却収入(売却代わり金)での返済となり、返済可能性が低いです。また、投資商品を購入する金融機関グループで購入資金を借入すると、バックファイナンスとして、金商法(バックファイナンスの禁止)や独禁法(抱き合わせ販売の禁止)等に抵触する可能性があります。
返済原資:投資資産の売却収入。
好ましいか:原則不可です。ただし、そもそも投資を目的とする事業体(投資ファンド等)の場合は許容されます。
赤字資金
概要:事業の赤字や資金不足を補填するための資金です。例えば商品価格100円に対し、1商品あたりの営業利益が110円となった場合、10円の赤字となります。それでも、仕入代金・家賃・人件費等の支払を減免されることはないため、その不足分を補うための借入となります。したがって、返済可能性が極めて低い資金となり、原則的に借りることはできません。
返済原資:事業改善後の営業収益、または資産売却収入など。
好ましいか:原則不可ですが、業績改善計画や資産背景、取引状況(メインバンクかなど)によっては許容される場合があります。
転貸資金
概要:他者に貸し付ける目的で借入する資金です。役員への貸付金となる場合も該当します。貸した相手先がどのような相手なのか(業績だけでなく反社会的勢力でないか)などを、金融機関側は知るすべが限定的なため、不適切な資金使途とされています。
返済原資:転貸先からの返済金、または本業の営業収益。
好ましいか:原則不可です。ただし、貸付を事業の目的とする事業者(貸金業など)に対しては許容されます。
参考:迂回融資;知人の優良企業から「融資の又貸し」はしてもらえる?
資金使途違反はダメ、ゼッタイ!
資金使途違反とは
資金使途違反とは、金融機関への融資申込みにおいて伝えていた資金使途と異なる資金使途へ借入金を流用することです。これは、金融機関の審査を欺く行為であり、金融機関との信頼関係を損なう重大な問題となります。
特に悪質とされる資金使途違反の例
- 運転資金として借りたが、投資信託の購入(純投資目的)に使った
- 設備購入として借りたが、設備を買わずに運転資金にした
- 運転資金として借りたが、他社に転貸した
資金使途違反が発覚するとどうなるか
資金使途違反が発覚すると、金融機関から厳しい対応(一括返済の請求・追加担保や追加保証など)をされます。それだけでなく、今後の取引関係にも大きな悪影響があり、審査にあたって著しく不利になります(そもそも受付してくれない可能性もあります)。
資金使途違反はバレる?
資金使途違反をしていても、それを金融機関が知る術がないのでは?と軽く考えている経営者の方もいますが、多くの場合、資金使途違反は短期間で発覚します。
資金使途違反はこれで発覚する
決算書や試算表の貸借対照表(B/S)でバレる
最も多いケースが決算書や試算表の貸借対照表(B/S)での発覚です。これらは金融機関の定期的な与信管理(モニタリング)がある場合は必ず提出しなければならないため、隠すことはできません。借入額が小さい場合は、金融機関によってはモニタリングを実施しない場合もありますが、新たな融資の申込みやリスケジュールを申し出るケースでは提出しなければなりません。
入出金でバレる
借入金融機関の普通預金・当座預金の口座を入出金のメインとしている場合、入出金はすべてウォッチされていますので、発覚します。また、設備資金として借りる場合は、借入金融機関でそのまま支払をすること(支払伝票を金銭消費貸借約定書と一緒に記入する等)が原則なので、そうでない場合も必ずエビデンス(証憑)を提出することになります。
内部告発でバレる
切羽詰まって資金使途違反をしてしまうケースも考えられますが、この場合は上記に加えて経理社員などの内部告発で発覚することもあります。
まとめ;資金使途は正々堂々と
資金使途によって融資の審査ロジックが変わるため、金融機関は非常に重視するポイントです。ここを誤魔化して不誠実のレッテルを貼られた場合、リカバーすることは出来ません(未来永劫記録に残ります)。
多少ハードルが高くとも、正々堂々と申告することを推奨します。