会社に「金庫番」を置くべき理由とは?置くときの留意点まで徹底解説!

金庫番とは;役割と目的

金庫番とは、一般に企業や組織の資金管理を厳格に行うための責任者を指します。ポストとしては、CFO(最高財務責任者)や管理本部長、経理部長といった役職に着くことが多いです。

金庫番の主な役割

  1. 現金の入出金管理
    日々の現金や銀行口座の収支を記録し、管理します。これにより、いつ・どこで・どのような形で資金が動いているのかを把握できます。
  2. 資金繰りの計画と予測
    今後の収入や支出を予測し、資金不足や過剰を未然に防ぎます。例えば、特定の月に大きな支払いがある場合に備えて資金を確保するなど、柔軟な対応が可能です。
  3. 収支の透明性向上
    全ての資金の動きを記録し、定期的に経営陣に報告することで、収支の状況を明確にします。これにより、無駄な支出や漏れを防ぎ、効率的な資金管理が実現します。

経営者ひとりで資金繰りを管理するリスク

経営者が自ら資金繰りを管理することは、一見効率的で責任の所在が明確に見えるかもしれません。しかし、実際には以下のような問題やリスクが生じます。

  1. 判断ミスや見落としのリスク
    経営者は多岐にわたる業務を抱えています。その中で資金繰りをすべて一人で管理するのは負担が大きく、注意が散漫になりがちです。例えば、重要な支出予定を忘れてしまったり、収支のバランスを誤った判断で崩してしまうことがあり得ます。
  2. 主観的な判断の増加
    資金管理は冷静かつ客観的な分析が求められます。しかし、経営者が自ら行うと、自身の利益や感情が判断に影響を与える可能性があります。これにより、不要な支出や投資をしてしまうリスクが高まります。例えば「この事業は絶対成功する」という思い込みで資金を過剰に投入する等です。
  3. プレッシャーによる判断力の低下
    経営者も人間であり、ストレスや疲労の影響を受けます。一人で資金繰りを抱えることで精神的負担が増大し、結果的にミスを引き起こす可能性があります。
  4. 不正の誘惑
    人は誰でも心の弱さを持っています。経営が苦しい状況に陥ったとき、短期的な解決のために不適切な資金操作(例えば、私的流用や無計画な借り入れ)をしてしまうリスクがあります。

金庫番を置くメリット

金庫番を設置することで、上記のリスクを軽減し、資金管理の厳格さと透明性を向上させることができます。

  1. 専門性の活用
    金庫番は資金管理に専念できるため、より精度の高い収支分析や計画が可能です。経営者の主観的な判断に頼らず、データや事実に基づいた冷静な判断が期待されます。
  2. 責任の分散
    資金管理の責任を分散することで、経営者の負担を軽減し、重要な経営判断に集中できるようになります。また、複数人での管理が加わることで、不正のリスクも減少します。
  3. 監視と抑止効果
    金庫番がいることで、経営者自身も資金管理に対して一定の抑制が働きます。「誰かにチェックされている」という状況は、心理的なブレーキとして機能します。
  4. 経営の透明性向上
    金庫番が定期的に報告を行うことで、収支の状況を明確にし、経営判断の信頼性が高まります。また、株主や従業員に対する説明責任も果たしやすくなります。

どうやって金庫番を選ぶか?

金庫番に必要なスキルと人格

金庫番には以下のスキルや人格が必要です。

  • 会計スキル
    簿記や会計の基礎知識、数字を正確に扱う能力、そして状況を分析する力が求められます。
  • 関係構築力
    状況に応じて、経営者に進言する、金融機関と適切なコミュニケーションを取るなど、関係構築がベースとなる業務が多いです。
  • 経営へのコミット
    資金繰りに不安のある状況では、最後まで経営者と添い遂げる覚悟が必要です。
  • 高い倫理観
    機密情報に対しての高い意識や、着服・横領、または粉飾に手を染めない倫理観が必要です。

社内に適任者がいない場合

上記の人物を育成・採用するのはかんたんではありません。その場合の代替手段として以下があります。

  1. 外部専門家の活用
    会計事務所や資金繰りに特化したコンサルタント、副業社員を活用する。これによるメリットとデメリットは以下の通りです。
    • メリット
      • 会計知識だけでなく、専門的な知見を得られる
      • すでに金融機関とネットワークがある
      • 第三者なので、常に緊張感があり、牽制効果を発揮する
      • 社員で雇用するよりもコストが低いことが多い
    • デメリット
      • 常駐してくれるわけではないので、タイムリーな経営判断ができない
      • 業務委託の範囲内でサービス提供し、経営自体にコミットするわけではない
  2. システム導入
    会計ソフトウェアを導入することで、管理の手間を削減することが期待できます。ただし、社内に使いこなせる従業員が必要です。

金庫番による横領・着服の発生要因と防止策

金庫番の設置においての懸念点として、横領・着服の可能性があります。

横領・着服の発生要因

  1. 権限の集中
    中小企業では、資金管理の責任が1人の金庫番に集中するケースが多いです。これにより、他者によるチェックが甘くなり、不正が発覚しにくくなります。
  2. 内部統制の不備
    金庫番の業務に関する監査や報告システムが十分に整備されていないと、不正が起こりやすくなります。例えば、収支記録を正確に確認する仕組みがない場合、虚偽の報告が可能になる等です。
  3. 経営者の過信や無関心
    金庫番に対する信頼が高すぎるあまり、経営者や他の従業員が管理状況を確認しない場合、不正が長期間見過ごされる可能性があります。
  4. 金銭的なプレッシャー
    個人的な借金や生活費の不足など、金庫番自身の経済的な問題が動機となり、不正を働くリスクがあります。
  5. 報酬や評価の不満
    十分な報酬が得られない、または努力が正当に評価されていない場合、不満が動機となることがあります。

横領・着服の防止策

  1. 職務分掌の徹底
    資金の入出金、記録、監査の各プロセスを別々の担当者に分担します。これにより、不正を働くためには複数の人が共謀する必要があり、不正のリスクが大幅に減少します。例えば、入出金を担当する人と会計記録をつける人を分ける等です。
  2. 内部監査の強化
    定期的に第三者による監査を実施し、金庫番の業務をチェックします。特に、収支報告書や帳簿と実際の現金残高を比較する作業を徹底することが重要です。
  3. 経営者の積極的な関与
    経営者自身が資金管理に一定程度関与し、定期的に金庫番の報告を確認することで、プレッシャーを与え、不正を抑止できます。例えば、月次報告会で金庫番から直接収支状況を聞く等です。
  4. デジタルツールの導入
    資金管理システムを導入してデータを自動記録・分析することで、人為的な操作を減らします。また、システム上での権限管理を明確化することで、不正アクセスを防止できます。
  5. 金庫番以外の従業員への教育
    他の従業員に簿記や会計の基本知識を教えることで、不正を早期に見抜ける目を育てます。また、内部通報制度を設け、不正が疑われる場合に匿名で通報できる環境を整えます。
  6. ライフスタイルのモニタリング
    金庫番の生活が急に派手になったり、不自然な行動が見られる場合、早期にチェックを行います。ただし、個人のプライバシーに配慮しつつ行うことが重要です。
  7. 報酬や待遇の適正化
    金庫番の仕事は責任が重いため、適切な報酬や評価を提供することで、不正の動機を軽減します。金銭的な不満やプレッシャーをなくすことが横領防止につながります。
  8. コンプライアンス意識の醸成
    組織全体でコンプライアンスの重要性を共有し、不正行為が許されない文化を構築します。これには、経営者自身が模範を示すことも含まれます。

資金繰り.com編集部

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