サブスクリプション価格の導入は、収入と資金繰りを安定させ、単発販売よりも収益を稼げる手法として注目されています。
しかし、サブスクリプション価格を導入しても、解約が相次いだり、顧客数が増えなければかえってマイナスになってしまう可能性もあります。
そうした点を踏まえた上で、サブスクリプション価格をいくらにすべきかシミュレーションをしてみました。価格設定の参考にしてみてください。
サブスクリプション価格のシミュレーション
シミュレーションの前提
シミュレーションを簡単にするために、以下の前提をおきます
- 商品Aを都度購入する場合の価格は1,000円
- 商品Aの購入者は以下のグループに分かれる
- グループa:月に10回購入する。人数200人
- グループb:月に4回購入する。人数600人
- グループc:月に2回購入する。人数200人
- グループa,b,cの全員がサブスクリプション価格に移行する
CASE1 解約がない場合の価格設定
解約がない場合(または、解約があっても合計の人数が変わらない)の価格設定は以下で求められます。
step1 従来価格での1ヶ月の売上高を求める
1ヶ月あたりの売上高は
売上高
=(10×200+4×600+2×200)×1,000
=4,800,000円
step2 人数で割る
これを人数で割って1人あたりの価格を求めると、この価格が売上を維持する場合のサブスクリプション価格となります。
サブスクリプション価格
≧ 4,800,000/(200+600+200)
≧4,800円
つまり、4,800円以上の価格であれば売上高が維持されることになります。
Excelによる詳細なシミュレーション
この価格設定の問題点
- サブスクリプション価格導入による期中の増減が加味されていない
- グループb,cは従来より消費金額が上がるため、解約される可能性が高い。解約される場合、グループaをb+cの解約者数と同数増やしていく必要がある
CASE2 解約がある場合の価格設定
解約がある(人数が減っていく)場合の価格を計算します。今回は、サブスクリプション価格導入で大幅に消費金額の上がるグループcが、一定割合で減っていくと仮定してみます。
- グループc:毎月10名ずつ減る
step1 期中の月平均人数を計算する
月平均人数はグループaは200人、グループbは600人で変わらず。グループcは
12ヶ月でののべ人数
=200+190+180+170+160+150+140+130+120+110+100+90
=1,940人
月あたりの平均人数=1,940/12=145人
グループa+b+cの月平均人数=945人
step2 従来の月平均売上高を月平均人数で割る
従来の月平均売上高は、すでに求めた通り4,800,000円なので
平均売上高÷平均人数≧4,800,000/945≧5,079.365円
したがって、5,080円以上の価格であれば売上が維持されます。
Excelによる詳細なシミュレーション
この価格設定の問題点
- グループcはさらに消費金額が上がるため、解約数がさらに上がる可能性が高い
- グループbもCASE1解約しない場合より価格が上がっているため、解約の可能性が高まる
CASE3 価格4,000円としたときに獲得すべき顧客数
今度は価格をCASE1よりも下げた場合、何人増やせば売上が維持できるか考えます。
具体的には、グループbの顧客の解約を避けるため、価格を4,000円にすると仮定します(月4回購入=1,000円×4≒4,000円と同じ価格)。
このとき、お得に感じるグループaの顧客が、毎月どのくらいずつ増えていけば売上が維持できるか計算します。
尚、単純化のために解約はないものとします。※差引での増分を求めているので、解約がある場合、解約人数を足せばOKです。
step1 価格4,000円のときの月平均売上高と、従来との差額を計算する
価格4,000円で人数が変わらないと仮定した場合
平均売上高
=(200+600+200)×4,000=4,000,000円
1ヶ月あたりの差額
= 4,800,000 − 4,000,000 = 800,000円
step2 従来売上との差額を埋めるために、毎月何人ずつ増加が必要かを計算する
毎月の増加人数をXとおくと
12ヶ月間での必要人数増
=(0+1+2+3+4+5+6+7+8+9+10+11)X=66X
66X人分の売上増で12ヶ月分の差額をまかなえればいいので、
66X × 4,000円 ≧ 800,000円×12ヶ月
X≧36.36363636
したがって毎月37人以上増加があれば(年間では)売上が維持されます
Excelによる詳細なシミュレーション
この価格設定の問題点
- 増加する顧客はグループa(10回購入)であると考えられ、利幅が小さいか赤字である可能性が高い。そのため、売上は維持できても収益面ではマイナスになる可能性が高い
- 毎月37人増加のハードルが高い場合、広告宣伝費や営業人件費などが収益を圧迫する可能性が高い。
サブスクリプション価格導入には計画性が重要
以上のシミュレーションを通じて、サブスクリプション価格導入には計画性が重要だと考えていただければ幸いです。一見、導入が簡単そうなサブスクリプション価格ですが、いくつものシミュレーションを実施して吟味し、価格を設定することが求められます。
今回は比較的かんたんな前提を置きましたが、実際はより複雑です。以下に、本記事では計算に入れていませんが、実際には考慮すべき点を挙げます
- コスト(購入回数に応じた原価等)を考慮する
- サブスクリプションに移行するタイミングでの解約を想定する
- 年払いを想定する場合は、収入と売上のズレを把握し、前受金残高を考慮する(参考:資金繰り改善に有効な「前受金」はリスクも高い;回数券や年払い、クラウドファンディングの落とし穴)
- 複数の価格帯を用意する場合、その割合を含める