役員貸付金は今すぐ見直そう;決算書に載せるデメリットから消し方まで

貸借対照表の資産に役員貸付金が計上されている場合、たとえ単なる会計上の処理だとしても、資金繰りに大きなデメリットがある可能性があります。

本稿では、役員貸付金について、発生原因やデメリット、解消方法など網羅的に解説します。

役員貸付金とは

役員貸付金とは?

役員貸付金とは、会社が役員に貸し付けているお金を指します。

※逆に会社が役員から借りている場合は「役員借入金」といいます。

貸借対照表上で「短期貸付金」「長期貸付金」という勘定科目で計上され、役員に貸していて、未回収である状態を示します。

役員貸付金が発生するケース

役員貸付金が発生する主なケースとして以下が挙げられます:

  1. 役員の個人的な資金不足の補填
    役員が急にまとまったお金を必要とする場合、銀行からの借入れが間に合わず、会社から貸付けを受けることがあります。
  2. 会社資金の一時的な利用
    役員が事業や個人的な理由で会社の資金を一時的に利用することがあります。いったん個人名義で何かしらの契約をしたが、お金はいったん会社の口座から振り込んだ、という場合などです。
  3. 決算時の調整のための計上
    実際に現金の移動がない場合でも、決算時に相手科目として、会計処理の都合で「役員貸付金」として記録されることがあります。
  4. 会社経費とできない経費の利用
    例えば領収書のない経費を会社の口座から支払った等の理由で、役員貸付金として計上されることがあります。

役員貸付金のデメリットとリスク

役員貸付金は、公私混同の結果として現れやすい勘定科目であり、税務上・資金調達上の大きなリスクを伴う場合があります。

税務リスク:認定利息(利息を取らないと役員賞与扱い)

役員貸付金を無利息、または低利息で貸し付けた場合、税務上の問題が生じる可能性があります。

参考:国税庁「No.2606 金銭を貸し付けたとき」

利息の差額はみなし給与(役員賞与)として課税される

役員貸付金については利息の下限が定められており、例えば、令和4年から令和6年中に貸付けを行ったものは、0.9パーセントです。これ以下であった場合は、利息の差額がみなし給与となります。役員の給与として、役員報酬は期初に定まっていますので、役員賞与(損金不算入)ということになります。

借方 貸方
役員賞与(損金不算入) 受取利息(益金参入)

⇒法人税が課税され、かつ、役員賞与は給与所得として所得税が課税される。

役員または使用人に無利息または低い利息で金銭を貸し付けた場合には、次の「金銭を無利息または低い利息で貸し付けたとき」の場合を除き、上記の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が、給与として課税されることになります。 国税庁「No.2606 金銭を貸し付けたとき」

みなし給与にならない場合

ただし、以下のいずれかの場合は、給与として課税しなくてもよいことになっています。

  1. 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員または使用人に、その資金に充てるため、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸し付ける場合
  2. 会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって役員または使用人に対して金銭を貸し付ける場合
  3. 上記以外の貸付金の場合で、「役員または使用人に貸し付けた金銭の利息について」の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が1年間で5,000円以下である場合

調達リスク:金融機関は許さない私的流用

金融機関が最も嫌う勘定科目とも言えるのが役員貸付金です。事業成長のために法人に貸し付けたはずのお金が、個人の遊興費などに回っている可能性があるためです。

参考:融資の資金使途とは?なぜ重要?違反は気付かれる?

自己資本からマイナス評価される

多くの場合、役員貸付金はすぐには返済できない資金であることが多いです。したがって、資産の部に計上はされているが、実態は価値のないものとして、自己資本からマイナス評価されます。

役員貸付金を返済するまでは貸さないと言われる

金融機関に融資を頼む前に、役員貸付金を返済するように求められることがあります。役員貸付をしているくらい余裕があるのだから、金融機関からの融資は不要、という見方とも言えます。

役員貸付金の利息

役員貸付金を適切に管理するためには、利息の設定と支払い方法を明確にすることが重要です。

役員貸付金の利率はいくらにするべき?

役員貸付金に適用する利率は、上述した通り、税務リスクを回避するために適正な水準で設定する必要があります。

具体的には、以下の水準以上である必要があります。

  1. 会社が他から借り入れて貸し付けた場合:その借入金の利率
  2. その他の場合:貸付けを行った日の属する年に応じた次に掲げる利率
    • 平成22年から25年中に貸付けを行ったもの:4.3パーセント
    • 平成26年中に貸付けを行ったもの:1.9パーセント
    • 平成27年から28年中に貸付けを行ったもの:1.8パーセント
    • 平成29年中に貸付けを行ったもの:1.7パーセント
    • 平成30年から令和2年中に貸付けを行ったもの:1.6パーセント
    • 令和3年中に貸付けを行ったもの:1.0パーセント
    • 令和4年から令和6年中に貸付けを行ったもの:0.9パーセント

参考:国税庁「No.2606 金銭を貸し付けたとき」

役員貸付金の利息の支払い方法

役員貸付金の利息は、実際に支払いを行い、帳簿上で適切に記録することが重要です。

利息の計算方法

利息の計算方法は、以下の通りです

貸付金額 × 利率 × 貸付期間(日数/365日)

しかし、役員貸付金が発生した日が明確になっている場合は別として、例えば決算で会計処理上役員貸付金に振り替えている場合などは日数が明確になりません。実務的には、ある程度大まかな日数で計上していることが多いと思われます。

利息の支払い

役員が会社に対して、計算された利息を現金や振込で支払います。これは、直接キャッシュを支払うほか、役員報酬と相殺するなどの方法があります。

役員貸付金のメリット

役員貸付金がもたらす唯一と言ってもいいメリットが相続時です。

唯一のメリットは相続時

役員貸付金の対象役員が死亡した場合、役員側からみるとお金を借りているわけですから、その分、相続財産が減少することになります。

役員貸付金の消し方

役員貸付金は、相続上のメリットはあれど、税務や資金調達のデメリットの方が圧倒的に大きいため、早急に解消することが重要です。

役員貸付金は決算までに解消を

早急に、というのは具体的には決算書に載るまでに、です。決算書に記載され、確定してしまうと、例えば金融機関の評価は悪くなります。また、資の申込みをするたびに、「役員貸付金はどうなっていますか?(解消されましたか?)」と聞かれることになります。

役員貸付金の解消方法

役員貸付金を解消するためには、以下の方法があります。

役員個人からの返済

もっとも基本的な方法は、役員自身が貸付金を返済することです。役員が自らの資金で会社に返済し、返済金は現金や銀行振込で支払い、領収書を発行して記録を残します。

一括返済が難しい場合、分割返済の計画を立てることも可能です。ただし、返済が遅れると税務上の指摘を受ける可能性があるため、計画的に進めましょう。

賞与や役員報酬との相殺

役員に支払う予定の賞与や役員報酬を、貸付金の返済に充てる方法です。毎月の役員報酬や年末賞与を支払う際に、その一部または全額を貸付金の返済に充当します。実質的に役員が自己資金を用意する必要がなく、手軽に解消できる点が魅力です。

相殺した金額については適切に帳簿に記録し、税務上のトラブルを防ぐために税理士のアドバイスを受けることが重要です。

役員退職金との相殺

金額が相当に大きい場合、役員退職金との相殺が考えられます。この場合は役員は自己資金を用意する必要はありません。ただし、退職まで待たなければいけないため「早急に」解消することにはなりません。

貸倒れ処理

役員が返済不能である場合、貸倒損失として処理する方法もあります。貸付金を「貸倒れ」として会計上の損失として処理します。

貸倒処理を行うには、「回収不能であること」を客観的に証明する必要があります。証拠が不十分な場合、税務署から否認される可能性があります。

役員借入金との相殺

役員が会社に対して借入金とは別に「貸付金」を提供している場合、これを相殺する方法です。この場合、貸借の明細を明確にしておく必要があります。

どうしても役員貸付金が決算書に載ってしまう場合の対処法

役員貸付金が解消できないまま決算を迎えてしまうケースもあります。その場合の具体的な対応策について解説します。

税理士と連携して他科目に振り替える

役員貸付金として計上されそうな場合でも、税理士と連携の上、他のより適切な科目に振り替えることで、税務署や金融機関からの疑念を軽減することができます。

金融機関への説明方法

決算書に役員貸付金が載ると、金融機関の審査でマイナス評価を受ける可能性があります。特に融資直後の決算では、私的流用の疑念を払拭しなければ、資金使途違反として一括返済を請求されてもおかしくありません。

背景と目的を明確に説明

役員貸付金の発生理由や、解消の計画を具体的に説明することで、金融機関の理解を得やすくなります。

例「急な契約が必要で、役員個人で契約し、お金は会社から振り込んだため役員貸付金として計上しました。契約名義は早急に会社に変更するので、次期決算までに役員貸付金は解消される予定です。」

返済計画の提示

貸付金が単なる「流用」ではなく計画的に管理されていることを示すため、返済スケジュールを提示します。返済額や期間を明示することで、信用力を保つことができます。

資金繰り.com編集部

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