経営者保証の基礎知識

銀行などの金融機関から融資を受ける際、経営者が負うことになる経営者保証。経営者ガイドラインにより経営者保証を求められることが減っているとはいえ、依然として経営者保証を差入する必要があるケースは多いです。

ここでは、経営者保証とはどういうものかについて解説します。

経営者保証とは

経営者保証は、会社が借りたお金を返せなくなった場合、経営者が個人としてその返済責任を負う仕組みです。この保証により、銀行は最終的な回収の可能性を高めます。また、経営者の経営責任を明確にするという目的もあります。

経営者保証は「連帯保証」

経営者保証は通常、「連帯保証」という保証形態をとります。保証人と聞いて一般的にイメージするのは単純保証かもしれませんので、その違いを理解しておきましょう。

単純保証と連帯保証の違い

通常保証は、保証人が主債務者(借入した法人)の補助的な立場で保証責任を負う形態であるのに対し、連帯保証は保証人が主債務者と同等の立場で責任を負います。

  単純保証 連帯保証
債権者が誰に請求できるか 主債務者に先に請求が必要 主債務者・保証人どちらにも請求可能
検索の抗弁権 あり なし
催告の抗弁権 あり なし
分別の利益 あり なし
責任の範囲 主債務者が支払い不能になった場合のみ保証人が責任を負う 主債務者と同等の責任を負う

 

  • 検索の抗弁権
    検索の抗弁権がある、とは、保証人は、債権者(例えば銀行)に対して「まずは主債務者の財産に対して請求や取り立てをしてください」と要求することができます。主債務者に十分な財産がある場合、保証人は責任を免れる可能性があります。
  • 催告の抗弁権
    催告の抗弁権がある、とは、債権者が保証人に請求してきた場合でも、「まず主債務者に支払いを求めてください」と主張することができるということです。
  • 分別の利益
    分別の利益がある、とは、複数の保証人がいる場合、保証責任を均等に分けることができるということです。たとえば、3人の保証人がいれば、それぞれが1/3ずつの責任を負う形です。

経営者保証の種類

経営者保証は「連帯保証」である点をおさえた上で、さらに、以下の種類に分かれることを知っておきましょう。

経営者保証には大きく個別保証または根保証に分かれ、この違いを理解しておいくことは重要です。また、過去には根保証の中でも包括根保証という保証もあったので、あわせて解説します。

保証形態範囲・特徴
個別保証特定の債務に限定。範囲が明確でリスクが限定的。
根保証上限額の範囲内で複数の債務を保証。将来の取引も対象となる。
包括根保証(※廃止)上限なし・範囲無制限。すべての債務を保証する形態。

個別保証

個別保証とは、特定の債務に限定して保証する形態です。保証の範囲が明確で、対象となる債務以外には責任を負いません。過去に借入した債務や、将来発生する債務には効力が及ばないため、保証人にとってリスクが限定的です。

個別保証の具体例

  • 会社が銀行から1億円の融資を受ける際に、その1億円の返済について経営者が保証する場合。この場合、経営者が負う保証責任は、1億円の融資とその利息・遅延損害金に限定されます。

根保証

根保証とは一定の範囲内で、将来発生する複数の債務も含めて保証する形態です。また契約書に明示してあれば、過去の債務についても保証の範囲内に含められます。

保証の対象は、融資や信用枠など複数の取引による債務全体であり、個別保証よりも保証人のリスクが高いといえます。ただし、保証金額には「保証極度金額」と呼ばれる上限が設定されるため、上限金額以上の債務に対する保証は必要ありません。

尚、経営者(個人)が根保証契約を結ぶ場合は個人根保証契約といって、民法465条の2第1項で規定されています。

根保証の極度金額と具体例

根保証契約では極度金額を定める必要があります。極度金額とは、保証人が保証する債務の上限金額のことです。これを超える金額については、保証人は保証する必要がありません。

  • 具体例;経営者が、根保証極度金額1億円の差入をしている会社
    銀行から最初に5000万円の融資を受け、その後3000万円を追加で借りた場合、借入の合計金額8,000万円とその利息および遅延損害金が1億円以内であれば全てに対して保証が適用されます。ここから更に3,000万円を借入した場合、合計金額1.1億円は1億円を超えるため、その超える部分の金額(利息と遅延損害金を含む)については保証が適用されません。

根保証の元本確定事由

元本確定事由とは、根保証で保証の対象となる債務額(元本)が最終的に確定するタイミングや条件を指します。保証契約では通常、保証人が無限に責任を負わないよう、一定の条件下で「元本確定日」が設定されています。これにより、保証人が予測不能なリスクを負うことを防ぎ、保証範囲が明確化されます。

  1. 元本確定日:契約であらかじめ定められた日。例えば「2025年12月31日」など具体的に設定されます。
  2. 確定事由:元本確定日以外にも、債務者の倒産や契約解除など特定の事由が発生した場合、保証対象の債務がその時点で確定します。

包括根保証(※民法改正により平成17年4月1日より廃止)

すでに廃止されていますが、包括根保証についても解説します。

包括根保証とは、上限額や対象範囲を設けず、会社が負うすべての債務を保証する形態です。保証範囲が広く、また、将来発生する債務についても無制限に保証することになるので、保証人のリスクが極めて高いと言えます。

包括根保証が現在では見られない背景

包括根保証は、保証人の権利や保護の観点から廃止されるに至りました。その背景は以下の通りです:

  1. 連帯保証人への過剰な負担;包括根保証では、経営者が知らない間に保証対象が膨らむ可能性があり、多額の責任を負うケースが多発しました。
  2. 改正民法(2020年施行)による規制;2020年の民法改正では、保証契約の透明性と公平性を確保するため、以下の要件が追加されました:
    • 上限額の明示義務:個人が保証人となる場合、保証する金額の上限を契約書に明記しなければならない。
    • 包括根保証の禁止:保証の対象範囲が無制限である契約形態が禁止され、保証契約が適切に管理されるようになった。

これにより、包括根保証は事実上禁止され、法的に無効とされるケースもあります。

包括根保証は保証人にとってリスクが過大であるため禁止され、現在では上限額が明記された「個別保証」や「根保証」が主流となっています。経営者が保証を求められる場合も、契約内容を慎重に確認し、過剰なリスクを避けることが重要です。

経営者ガイドライン

経営者保証ガイドラインとは

経営者保証ガイドラインは、中小企業経営者の個人保証(経営者保証)に関する透明性や適正性を確保し、その負担を軽減する目的で策定されました。経営者保証は資金調達を円滑にする一方で、経営の制約や再起困難を招く可能性があるため、その適用範囲と運用方法を見直しています。2014年(平成26年)に全国銀行協会と中小企業庁が策定しました。

参考:全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」とは

経営者保証ガイドラインの適用範囲

まず、経営者保証ガイドラインを適用する(つまり、経営者保証の差入をしない)ためには、最低限、以下の全てを満たす必要があります。

  1. 保証契約の主たる債務者が中小企業であること
  2. 保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること。ただし、以下に定める特別の事情がある場合又はこれに準じる場合については、このガイドラインの適用対象に含める。
    • ① 実質的な経営権を有している者、営業許可名義人又は経営者の配偶者(当該経営者と共に当該事業に従事する配偶者に限る。)が保証人となる場合
    • ② 経営者の健康上の理由のため、事業承継予定者が保証人となる場合
  3. 主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等(負債の状況を含む。)について適時適切に開示していること
  4. 主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと

経営者保証ガイドラインを適用するポイント

上記の適用範囲に加え、主たる債務者(借り入れする法人)および保証人は、経営者保証を差入しない融資を受けるために以下に努めることとされています。

  1. 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
    法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等をいう。以下同じ。)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備する等
  2. 財務基盤の強化
    財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。
  3. 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
    資産負債の状況(経営者のものを含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明する。事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には、自発的に報告するなど適時適切な情報開示をする

経営者保証ガイドラインに則った保証債務整理

実際に、保証契約を履行しなければならなくなった場合、保証人は、当該保証人が負担する保証債務について、このガイドラインに基づく保証債務の整理を対象債権者に対して申し出ることができるとされています。そのための条件は以下の通りです。

  1. 経営者保証ガイドラインの適用範囲に入っている
  2. 法的債務整理手続または準則型私的整理手続
  3. 債権者にとっても経済的な合理性が期待できる
  4. 保証人に破産法第252条第1項(第10号を除く。)に規定される免責不許可事由が生じておらず、そのおそれもない

まとめ;経営者保証の差入は慎重に

経営者保証の差入は、「そういうものだ」と特に考えずに差入をしてきた経営者の方も多いかもしれません。しかし、連帯保証は大きなリスクを伴いますし、経営者保証ガイドラインも浸透してきています。

経営者保証を差入しなくてもいい方法を検討したり、すでに差入ている保証を解除することを相談してみるのもいいでしょう。

経営者保証差入しない場合は+αの金利を許容するのが一般的

経営者保証を差入しない場合、金融機関のリスクが高まりますので、無条件に無保証人というわけにはいきません。それを補完するのは金利(または保証料など)を少し多めに払うことが一般的です。

例えば、信用保証協会や日本政策金融公庫では以下のような制度が用意されています。

資金繰り.com編集部

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