資金繰り改善ガイド

資金繰りに不安があっても、どのような点を改善していけばいいのか?
具体的には「だれが・いつまでに・なにを・いくら・どのように」改善すればいいのか?が漠然としていては、大きな効果は望めません。

ここで網羅的な資金繰り改善のアプローチ方法をまとめますので、参考にしてみてください。

目次
  1. 資金繰りとは
  2. 資金繰り改善のロードマップ
  3. 営業キャッシュ・フローの改善
  4. 投資キャッシュ・フローの改善
  5. 財務キャッシュ・フローを改善する
  6. まとめ;資金繰り改善計画を策定しましょう

資金繰りとは

資金繰りとは、企業が日々の運営や経営活動を続けるために必要な現金の流れを管理することです。具体的には、売上や借入などから得られる「収入」と、仕入れや給与、返済などに使う「支出」のバランスを調整し、資金不足に陥らないようにすることを指します。

資金繰りが悪化すると、仮に利益が出ていても、支払いが滞り、事業継続が困難になるため、経営の根幹に関わる重要な要素です。

資金繰りを適切に管理することで、企業は安定した事業運営が可能になり、成長への投資を計画的に行う余裕も生まれます。経営者は資金繰り管理を経営戦略の一環として捉えることが求められます。

資金繰りの管理資料

資金繰りは、まずは全ての収支を見える化し、表で管理しておくことが重要です。以下に資金繰りに有用な代表的な2つの資料を挙げます。

資金繰り表

その名の通り、資金繰り管理の代表的な表です。資金の収支予定を可視化するため、月次(または週次・日次)での入出金および残高を表にしたものです。一般的には実績にもとづいた将来の予測分について作成します。これにより、収支のタイミングを把握し、短期的な不足や余剰が明確になります。

キャッシュ・フロー計算書

決算書にもとづいて、営業キャッシュ・フロー、投資キャッシュ・フロー、財務キャッシュ・フローの3部門にキャッシュ・フローを整理した表です。主に過年度の現金の収支実績とその要因を把握する際に活用します。

また、数年単位での予測キャッシュ・フロー計算書を作成することで、中長期的な収支を見通したり、金融機関向けの返済計画を立案するのに役立ちます。

営業CF 企業の本業で得た現金の流れを表します。商品の販売やサービス提供による収入や、原材料費や人件費などの支出が含まれます。利益を生み出す力を評価します。
投資CF 設備投資や資産の売買など、将来の成長のための現金の動きを示します。工場建設、機械購入、株式売却などが含まれます。長期的な戦略を反映します。
財務CF

借入や返済、配当金の支払いや株式発行など、資金調達に関する現金の流れを示します。企業の資金管理や返済能力を確認する指標です。

 

資金繰りの適切な管理体制

計画や資料を整備しても、それらにもとづいた実行ができなければ資金繰りを良好に保つことはできません。以下に資金繰りを良好に保つための管理体制のポイントを挙げます。

金庫番の設置

資金繰りを良好に保つためには、責任を持って現金の動きを管理する「金庫番」を設置することが重要です。金庫番は、資金の入出金を一元的に管理し、収支の状況や予測を正確に把握します。責任の所在を明確にすることで、資金管理の精度が向上し、無駄な支出や見落としを防ぐことができます。

定期的な会議体またはレポート

資金繰り状況を継続的に把握するためには、定期的な会議体やレポート作成が必要です。毎月または毎週の会議で、収支状況や予測の変化、課題を共有し、適切な改善策を協議します。これにより、認識のズレ(利益は出ているのに資金が赤字など)や問題を早期に発見し、対応を迅速化できます。

余裕資金の調達

資金繰り管理の前提として、余裕資金が確保されていることがあります。突発的な支出や入金の遅れ、不測の事態が起こるとすぐさま事業が不安定になるような状態では、いくら管理していても常に綱渡りの状態が続いて、精神的な余裕もなくなります。一定の余裕資金を用意しておくことで、資金繰り管理体制を健全に保つことができます。

金融機関との関係構築

資金繰りの対策にあたっては、資金調達の主要ステークホルダーである金融機関との良好な関係は必要不可欠です。特に銀行や信用金庫は、一定の信用がなければ少なくともスピーディーに資金を借りることは出来ないため、平時から担当者との連絡を密にし、企業の経営状況や課題を共有しておいたり、小額でも返済実績や積立の実績を作っておくことが重要です。

資金繰り改善のロードマップ

資金繰り改善においては、決算書(財務諸表)の視点からアプローチする必要があります。上述したキャッシュ・フロー計算書(C/S)や資金繰り表を作成していれば、それらを元にすることが有効です。

以下、キャッシュ・フロー計算書(C/S)の3大項目をもとに着眼点を整理しています。

営業CF 企業の本業で得た現金の流れを表します。商品の販売やサービス提供による収入や、原材料費や人件費などの支出が含まれます。利益を生み出す力を評価します。
投資CF 設備投資や資産の売買など、将来の成長のための現金の動きを示します。工場建設、機械購入、株式売却などが含まれます。長期的な戦略を反映します。
財務CF

借入や返済、配当金の支払いや株式発行など、資金調達に関する現金の流れを示します。企業の資金管理や返済能力を確認する指標です。

 

step1. 資金繰りの状況を正確に把握する

まず、概算でも資金繰り表を作成し、自社の資金状況を明確に把握し、問題がどの程度差し迫っているかを評価します。

資金ショート
までの期間

対応策
3ヶ月以内

直近の資金ショートを防ぐことが最優先です。キャッシュフロー表を週単位で作成し、具体的な支出予定と入金予定を確認します。必要に応じて、短期融資や支払いの条件変更(支払い期限の延長など)を即座に交渉します。

6ヶ月以内

キャッシュフロー表を月単位で作成し、入出金のバランスを見直します。コスト削減策や売掛金の早期回収など、改善策を迅速に実行します。

6ヶ月以上

中長期的な資金計画を立てます。将来的に必要な資金を確保するため、収益構造の改善や新しい資金調達の検討を開始します。無駄な支出の抑制、長期の売上目標の見直しを行います。

 

step2. 改善できるポイントを洗い出す

資金繰り改善のために、具体的な打ち手をリストアップします。次章から改善のための着眼点を列挙していますので、ぜひ有効活用してください。

尚、洗い出す際には、「効果の度合」と「効果が出るスピード」の両面で対応策を評価します。

  効果:大 効果:小
スピード:速 最優先事項 時期を見ながら実行

スピード:遅

計画を立て、まず着手

不要

 

step3. 優先順位をつけてアクションプランを立てる

改善案を実現可能な計画に落とし込み、優先順位を明確にします。

着手時期 内容 改善時期 確度
今月 サービス料金の5%値上げ 来月 高い
来月

新サービスの開発

6ヶ月後 高い
来月

銀行融資を調達

3ヶ月後 低い

 

各アクションに具体的な期限や担当者を設定し、実行を管理します。

step4. 定期的に見直す

資金繰りは一度の対応では改善しきれないため、定期的な振り返りを行います。この際は、資金繰り表での予実管理と、月次・四半期等でのキャッシュ・フロー計算書を作成します。

サイクル 管理資料 内容
週次 資金繰り表 予定と実績のズレがないかをチェックします。また不正出金や未回収債権等がないかもあわせてチェックします。
月次 資金繰り表
キャッシュ・フロー計算書
予定と実績のズレを再確認しつつ、翌月〜6ヶ月先程度の資金繰り見通しを更新します。
四半期 キャッシュ・フロー計算書

前期決算等との差分を俯瞰的に認識します。各施策の方向性が正しいか検証します。

 

営業キャッシュ・フローの改善

営業キャッシュ・フローの改善では、売上を増やし、支出を減らして収益性を高め、また、回収を早期化するなど資金効率を高めます。

売上を改善する

売上と粗利の改善なくしては、抜本的に資金繰りを改善することはできません。しかし、そもそも実現が難しかったり、施策によっては中長期の視点で取り組む必要があるため、どのように優先順位付けをするかがポイントになります。

売上を改善する上では以下の公式を基本に考えます。

売上高 = 客単価 × 客数 × 購入頻度(率)

ビジネスモデルの特性により、上記を自社の実態にあわせてアレンジしながら改善効果を検証します。

客単価を上げる

物価上昇にあわせ、価格改定の依頼(通知)を取引先や消費者に出すことはまず検討の余地があります。

とはいえ、それによる顧客離れリスクを踏まえると、客単価を上げるためには、本源的には商品の価値を高める工夫が重要です。たとえば、高品質な商品やオプションを追加することで、顧客にとって「これも欲しい」と思わせる魅力を提供することは効果的です。また、適切なタイミングでアップセル(上位商品を提案)やクロスセル(関連商品を提案)を行うことで、顧客満足度を保ちながら売上を伸ばすことができます。これに加え、価格戦略(サブスクリプション、バンドル)も検討しましょう。

客数を増やす

客数を増やすためには、集客の仕組みを強化する必要があります。広告やSNSでの効果的な発信を通じて、新しい顧客を呼び込むことができます。また、口コミを促進するために、既存顧客に特典を提供する方法も有効です。イベントやキャンペーンを実施して、話題性を生み出すこともおすすめです。さらに、ターゲット層を明確にし、そのニーズに合った商品やサービスを提供することで、来店や購入につながる確率を高められます。

購入頻度を上げる

購入頻度を上げるには、顧客との継続的な関係を築くことが大切です。定期的なメール配信やSNSの投稿で、新商品やお得な情報を知らせ、再訪を促しましょう。また、ポイントカードや会員限定の特典を導入することで、「また来たい」と思わせる動機を与えられます。さらに、商品やサービスの利用後のフォローアップを行い、顧客満足度を高めることで、リピート購入につながる信頼関係を構築できます。

新規事業をはじめる

公式の中に改善点が見つからなければ、新分野への進出が残された手になります。まずは、すでにある顧客ニーズに応える形で、新商品やサービスを投入します。きちんと顧客へのデプスインタビューなどを通じて差別化ポイントを明確にし、競争力を高めましょう。

一方で、新商品やサービスの開発能力がない場合は、フランチャイズへの参加(フランチャイジー)も有効な戦略になります。従業員に多少の余裕がある場合、すでにあるビジネスモデルへ参加することで、売上改善だけでなく、ノウハウの獲得や人材教育にもつながります。

コストを削減する

コスト削減は、資金繰りを改善しようとしたとき、多くの方が真っ先に思い付く方法ですが、必ずしも簡単ではありません。

支出を削減するには、管理会計(CVP分析)の目線が欠かせません。費用が変動費なのか固定費なのか分からない状態では、削減する労力に対して効果が小さいか、最悪の場合、逆効果になることもあります。

変動費率の削減

変動費率を削減することで、売上が上がったときの費用の増加を抑えることができます(CVP分析)。変動費率を削減するには、仕入れ、外注、物流、人件費など各費目ごとに「無駄を省き効率を上げる」ことが重要です。また、費用を削減しつつ、品質や顧客満足度を維持するためには、全体のバランスを見ながら取り組む必要があります。

材料費の削減
  1. 仕入先の見直し
    • 同等品質でより安価な仕入先を探します。複数の仕入先から見積もりを取り比較検討します。
    • 海外からの調達(グローバルソーシング)も検討します。
  2. 一括仕入れによる割引交渉
    • 一度に大量購入することで、ボリュームディスカウントを得られるよう交渉します。
  3. 代替材料の使用
    • 高価な原材料を、同じ品質を保ちながらコストの低い代替品に変更します。
  4. 歩留まり向上
    • 材料の無駄を減らすため、製造プロセスを見直します(例: 切れ端の再利用や生産工程の効率化)。
外注費の削減
  1. 外注内容の見直し
    • 外注している作業を内製化できるか検討します。社内リソースを有効活用することでコストを削減できます。
  2. 外注業者の見直し
    • コストパフォーマンスの良い外注業者を選定し直します。競争入札を行うのも有効です。
  3. 長期契約による値下げ交渉
    • 長期的な取引を前提とした契約を提案し、単価の引き下げを交渉します。
配送費の削減
  1. 物流効率の向上
    • 配送ルートの最適化やまとめ配送を実施し、輸送回数を減らします。
    • 配送業者との契約内容を見直し、送料の交渉を行います。
  2. 梱包材の見直し
    • 軽量で安価な梱包材に切り替えることで、配送費用を削減します。
  3. 共同配送の活用
    • 他の企業と共同で配送を行うことで、物流コストを分散します。
人件費の削減(変動部分)
  1. パート・アルバイトの活用
    • 繁忙期や閑散期に合わせて労働力を調整できるパートタイムスタッフを活用します。
  2. インセンティブ制度の見直し
    • 業績連動型の報酬制度を再設計し、無駄な支出を抑えます。
その他の変動費削減
  1. エネルギーコスト削減
    • 製造プロセスで消費するエネルギーを効率化することで、変動費に影響を与えます(例: 高効率機械の導入)。
  2. 広告宣伝費の最適化
    • 広告の効果を測定し、費用対効果の低い媒体やキャンペーンを削除します。オンライン広告でターゲティング精度を高めるのも効果的です。
  3. 返品・クレームコストの削減
    • 品質管理を強化し、不良品の発生を減らすことで返品にかかるコストを削減します。

固定費の削減

固定費は、事業の規模や売上に関係なく発生する費用です。これらを削減することで、資金繰りの改善や利益率の向上が期待できます。固定費を削減するときは、事業の運営に支障をきたさない範囲で行うことが重要です。

コストカットだけでなく、効率化や効果的なリソース配分を目指すことで、事業の競争力を高めながら資金繰りを改善できます。

以下に固定費削減の具体的な削減方法を挙げます。

人件費の削減
  1. 業務効率化
    業務プロセスを見直し、デジタルツールや自動化を導入することで、必要な人員を最適化します。
  2. 役員報酬の見直し
    経営陣の報酬を一時的に削減し、資金を確保します。
  3. 非正規雇用の活用
    正社員の代わりにパートタイムや派遣社員を活用し、柔軟な雇用形態を取り入れます。
施設関連費の削減
  1. オフィスや店舗の移転
    家賃が高額なエリアから、コストが低い地域や小規模スペースへ移転します。
  2. スペースの統合や縮小
    使用していないスペースを縮小し、家賃や維持費を削減します。
  3. サブリースの活用
    余剰スペースを他社に貸し出し、コスト負担を軽減します。
光熱費の削減
  1. エネルギー効率の改善
    LED照明や省エネ機器を導入して、電気代を削減します。
  2. 使用時間の制限
    空調や照明の稼働時間を短縮することで、電気やガスの消費を抑えます。
通信費の削減
  1. 契約内容の見直し
    インターネットや電話のプランを最適化し、不要なサービスを解約します。
  2. オンラインツールの導入
    リモート会議やクラウドサービスを活用し、通信インフラのコストを削減します。
保険料の削減
  1. 契約内容の精査
    法人保険や設備保険の契約を見直し、不要な補償を削除します。
  2. 複数見積もりの取得
    他の保険会社と比較し、より安価なプランに変更します。
サブスクリプション費用の削減
  1. 利用状況の確認
    ソフトウェアやサービスのサブスクリプション契約を見直し、利用頻度が低いものを解約します。
  2. 共有ライセンスの活用
    チームで使用するソフトウェアのライセンスを共有し、契約数を減らします。
借入金利の削減
  1. 借り換えの検討
    金利の低い金融機関に借り換えを行い、金利負担を軽減します。
  2. 交渉による金利引き下げ
    取引金融機関と条件を再交渉して、支払利息を削減します。
メンテナンス費用の削減
  1. 契約の見直し
    定期メンテナンス契約を必要な頻度に変更し、コストを削減します。
  2. 設備の更新
    古い設備をエネルギー効率の良いものに更新することで、長期的なコスト削減を図ります。
福利厚生費の削減
  1. 制度の再設計
    福利厚生の内容を見直し、従業員にとって重要度の低い制度を縮小します。
  2. 外部サービスの利用
    自社運営の福利厚生を外部の福利厚生代行サービスに切り替え、コストを抑えます。
広告費の削減
  1. 広告内容の見直し
    効果の薄い広告キャンペーンを中止し、費用対効果の高いものに集中します。
  2. デジタル広告の活用
    紙媒体からデジタル広告に切り替え、コストを低減します。

決済条件を変更する

売上債権の回収を早期化する

売掛金の回収期間を短縮することで、キャッシュフローを改善します。販売先と交渉して、条件を変更してもらうことを検討します。

また、手形の場合は割引したり、売掛金の場合はファクタリングを活用することも検討できます。

仕入債務の支払を長期化する

仕入先と交渉して支払条件を延長することで、キャッシュアウトフローを遅らせます。取引条件の見直しや、分割払いを導入します。

クレジットカードを活用して仕入支払を長期化する方法もありますが、利用には注意が必要です。

在庫の滞留期間を適正化する

在庫管理を徹底し、過剰在庫や不良在庫を削減することで、資金を固定させずに流動性を高めます。

資材の発注に関しては経験と勘ではなく、データを活用して需要予測をします。また、管理においては、入出庫記録をつけ、陳腐化しないようにコントロールしましょう。

前受金を導入する

回数券や年払いを導入する

顧客から前払いで資金を受け取ることで、事前にキャッシュを確保します。特に、サービス業や会員制モデルで有効です。ただし、顧客への信頼性を高める必要があります。

購入型クラウドファンディングを活用する

新商品やプロジェクトに対し、購入型クラウドファンディングで資金を募る方法です。製品販売前に資金を確保でき、製品需要の試験にもなります。目標達成が条件となるため、戦略的なマーケティングが必要です

投資キャッシュ・フローの改善

投資キャッシュ・フローの改善では、主に資産や事業の売却を通じてキャッシュフローを確保します。

投資キャッシュ・フローを改善することは、一時的に大きな財務インパクトをもらたすことがありますが、その場しのぎになってしまうこともあります。あわせて経常的な資金繰りの改善に取り組むことが重要です。

資産売却

資産売却は即時的な資金調達手段として有効ですが、売却後の業務への影響や代替手段の確保を慎重に検討する必要があります。

在庫を一斉処分する

在庫を一斉処分することで、現金化を図り、資金繰りを改善します。セールやアウトレット販売、卸売市場での大量販売を活用するのが一般的です。

特に不良在庫や需要が低い商品を処分することで、保管コストの削減も期待できます。

ただし、必要な在庫まで削減すると、販売機会の損失や顧客満足度低下につながるため、適正在庫を維持することが重要です。在庫を削減した後は、需要予測を活用して在庫管理を最適化することを検討しましょう。

売掛債権を売却する

売掛債権をファクタリング業者に売却することで、売上金の回収期間を短縮し、即時に現金化します。特に、売掛金の回収サイクルが長い企業に有効です。手数料がかかるため、調達コストを考慮する必要があります。また、重要な取引先の売掛債権を頻繁に売却すると信用を損なう可能性があるため、慎重に活用します。

設備を売却する

利用頻度が低い設備や老朽化した設備を売却することで、現金を確保します。

売却後に業務に支障をきたす場合は、リースやレンタルを利用することで代替できます。また、売却益がある場合は、新たな設備投資に充てることで、長期的なコスト削減や効率化を図ることも可能です。

車両を売却する

不要な社用車や稼働率の低い車両を売却し、キャッシュを得ます。

特に複数台を保有している場合、シェアリングサービスやリースを活用することで業務に支障を出さずにコスト削減を実現できます。売却前に保険やメンテナンス費用も見直し、追加の節約を検討します。

不動産を売却する

遊休不動産を売却する

使われていない土地や建物を売却することで、大きな資金を確保します。遊休不動産は維持管理コストがかかるため、売却は財務効率を高める手段として有効です。

ただし、戦略的に重要な資産や将来価値が見込める不動産を安易に売却するのは避けるべきです。売却が難しい場合は、不動産の賃貸(コインパーキング等)や共同利用などの代替手段を検討するとよいでしょう。

稼働不動産を売却する

事業に使用中の不動産を売却することも検討の余地があります。正常に事業を継続していくためにはリースバックを活用し、引き続き物件を使用し続けることができます。

投資・運用商品を売却(解約する)

生命保険を解約する

法人が保有する生命保険を解約し、解約返戻金を資金として活用します。特に、高額な掛け金が発生する保険契約を見直すことで、キャッシュフローを改善します。

ただし、解約返戻金が少ないタイミングでの解約や、保険が事業や従業員にとって重要なリスク対策となっている場合は注意が必要です。解約が難しい場合は、契約内容の変更や、払い済み保険への移行を検討することが代替策となります。

事業売却

資金繰り改善においては、事業を抜本的に見直す必要もあります。そうした局面では、部分的な改善ではなく、事業ごと売却するという手法も検討します。事業を売却する方法には、事業譲渡と株式譲渡または合併があります。

事業譲渡

事業譲渡は、会社の特定事業や資産を買い手に譲渡する方法です。設備や在庫、顧客リスト、知的財産など、売却対象を選定できます。

メリット

  • 資金調達が迅速: 事業全体でなく部分的な譲渡も可能で、短期間で現金を得られます。
  • 不採算事業の切り離し: 損益が改善され、リソースを主力事業に集中できます。
  • 譲渡対象の選択が柔軟: 必要な資産や従業員を残すことが可能です。

デメリット

  • 手続きが複雑: 従業員や契約の個別移行が必要で、関係者の同意が求められます。
  • 買い手が限定的: 買収対象が事業単位のため、適切な買い手を見つけるのが難しい場合があります。
  • 税負担: 売却益に法人税が課されます。

株式譲渡

株式譲渡は、会社の全株式または一部株式を買い手に売却する方法で、会社全体を包括的に売却する形になります。一部の事業だけを株式譲渡したい場合には、売却対象となる新会社(新設分割)をつくってから売却するスキームが一般的です。

メリット

  • 売却がシンプル: 株式の譲渡だけで会社全体が移転するため、手続きが比較的簡単です。
  • 事業の継続性: 買い手に会社全体を譲渡するため、従業員や契約がそのまま維持されます。
  • 広範囲な売却対象: 株式そのものを売却するため、企業全体の価値が評価されやすいです。

デメリット

  • 買い手に負債が引き継がれる: 買い手にとって隠れたリスクや負債を引き継ぐ恐れがあり、デューデリジェンスが厳格になります。
  • 株主間の調整が必要: 全株式を売却する際には、全株主の同意が必要になる場合があります。
  • 売却益の課税: 株主個人の所得税や譲渡益税が発生します。

合併

合併は、複数の会社を統合する方法で、「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。吸収合併では、一方の会社が存続し、もう一方が消滅します。

メリット

  • 統合後の効率化: 資産やリソースを統合することで、コスト削減や規模の経済が期待できます。
  • 事業継続性: 契約や従業員を包括的に引き継ぐため、移行がスムーズです。
  • 税制優遇: 特定の条件を満たす場合、合併時の税負担が軽減されます。

デメリット

  • 手続きが煩雑: 会社法に基づく厳密な手続きが必要で、時間とコストがかかります。
  • 統合後のリスク: 文化の違いや組織統合の失敗により、事業運営が混乱する可能性があります。
  • 資金調達が直接的でない: 合併そのものはキャッシュフローの改善に直結せず、統合効果を得るには時間がかかります。

財務キャッシュ・フローを改善する

資金調達

融資を受ける

銀行から融資を受ける

銀行融資は、資金調達の中でも一般的な方法で、低金利で大口資金を調達できます。短期融資(運転資金)や長期融資(設備資金)を目的に利用されます。審査が厳しく、財務状況や事業計画が精査されますが、信用力がある企業に適しています。銀行融資は安定した資金繰りの確保に有効ですが、返済計画を綿密に立てる必要があります。

貸金業者からの事業ローンを受ける

ノンバンクや貸金業者からの事業ローンは、銀行融資より審査が緩やかで、資金調達が迅速に行えます。信用力が低い企業でも利用可能ですが、金利が高く設定されることが多いため、短期的な利用に適しています。特に急な資金需要に対応する際に有効です。

公的融資を受ける(日本政策金融公庫)

日本政策金融公庫などの公的融資は、中小企業や創業者向けに低金利で提供される制度融資です。事業開始時や新規設備投資の際に活用されることが多く、返済条件が柔軟です。申請手続きが必要ですが、審査基準は銀行に比べて比較的緩やかです。

ソーシャルレンディングを活用する

ソーシャルレンディングは、オンラインプラットフォームを通じて個人投資家から資金を集める方法です。資金調達が迅速で、用途に応じた融資を受けられます。銀行融資ほどの審査はありませんが、金利はやや高めに設定される場合があります。スタートアップや事業拡大時に適しています。

出資を受ける

ベンチャーキャピタルから出資を受ける

ベンチャーキャピタル(VC)は、成長が見込まれる企業に出資し、経営支援を行います。返済不要な資金調達が可能で、大規模な資金を得られますが、経営権の一部譲渡や成果を求められる場合があります。特に成長段階の企業に適した手法です。

プライベート・エクイティファンドから出資を受ける

プライベート・エクイティ(PE)ファンドは、企業買収や事業再生を目的に資金を提供します。経営改善や成長支援を受けることができ、大規模な資金調達が可能ですが、経営への関与が強まるため、コントロールが制限される可能性があります。

公的出資を受ける(中小企業投資育成)

中小企業投資育成株式会社は、中小企業向けに公的出資を行う機関です。配当金でのリターンを重視するため、経営権の譲渡を求められることはありません。中小企業が経営の自由度を保ちながら資金調達する際に有効です。

エンジェル投資家から出資を受ける

エンジェル投資家は、創業期や初期段階の企業に資金を提供します。返済不要で、経営支援やネットワークの提供を受けられるのが特徴です。ただし、株式の一部譲渡が必要になる場合があり、経営方針の調整が求められることがあります。

株式型クラウドファンディングを活用する

株式型クラウドファンディングでは、個人投資家から出資を募り、株式を提供します。企業の知名度向上や新規顧客獲得にもつながりますが、事業計画の透明性や投資家への説明責任が求められます。

補助金・助成金を活用する

補助金や助成金は、政府や自治体が提供する返済不要の資金です。ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金など、目的に応じた種類があります。特に、新規事業や設備投資の際に有効です。ただし、申請書類の作成や審査が必要で、受給までに時間がかかる場合があります。

債務整理

債務整理は、債務の履行が難しくなった場合に、負担を軽減する手続きです。主に法律や交渉を通じて、返済額や条件を調整します。裁判所を利用する方法(法的整理)と、当事者同士で話し合う方法(私的整理)があります。目的は、経済的な再建や返済能力の改善です。具体的には、返済計画の変更、借金の一部免除、株式への転換などが含まれます。これにより、債務者は事業を立て直すことが可能となります。

私的整理

私的整理は、裁判所を介さず、債権者と直接交渉して借金の条件を見直す手続きです。企業や個人が利用でき、通常は弁護士や専門家が間に入ります。特徴は迅速かつ柔軟である点で、法的整理に比べて手続きが簡単です。一方、債権者全員の同意が必要なため、合意形成が難しい場合もあります。企業では、経営改善計画を示して債務の一部減免や返済スケジュールの変更を交渉します。

私的再生

私的再生は、裁判所を利用しない再生手続きです。企業が債権者と合意して、経営再建を図ります。再生計画には、債務減免や分割返済が含まれます。法的整理より自由度が高く、経営者が継続的に事業を運営できます。

ただし、交渉が成立しなければ破産に至る可能性もあります。弁護士や会計士が支援し、経営改善を目指すのが一般的です。

金融機関の借入をリスケジュール

リスケジュール(リスケ)とは、借金の返済条件を金融機関と再交渉し、返済期限や金利を見直すことです。例えば、月々の返済額を減らすために返済期間を延長したり、一時的に元本返済を停止したりします。これにより資金繰りが改善し、経営を立て直す時間を確保できます。金融機関の理解と協力が必要であり、綿密な経営改善計画が求められます。

デット・エクイティ・スワップ(DES)

債務整理において、既存の借入を債権者(金融機関)からの出資に転換する、DES(デット・エクイティ・スワップ)が使われることがあります。DESは、既存の借入(デット)を出資金(エクイティ)と交換(スワップ)する金融的なスキームです。

デット・デット・スワップ(DDS)

債務整理において、既存の金融機関借入を、劣後ローン(資本性借入金)に転換することで再建を支援することがあります。この既存の借入を劣後ローンに転換することを「DDS(デット・デット・スワップ)」といいます(スワップは交換の意で、債務を違うタイプの債務に交換するということです)。

債務免除

債務免除は、借金の一部または全額を免除してもらう手続きです。企業の経営が困難な場合、金融機関が損失を一部受け入れる形で実施されます。債務免除は最終手段とされ、信頼関係の維持が重要です。免除後は、経営改善計画を実行し、再建を図ることが求められます。この方法は、債務者側にとって大きな負担軽減になりますが、金融機関の合意が不可欠です。

第二会社方式

第二会社方式は、経営不振の事業を新会社に移管する再建手法です。旧会社の負債はそのままに、新会社が事業を引き継ぐことで、経営の立て直しを目指します。債権者との調整が必要ですが、迅速な再建が可能です。旧会社は整理されるため、債権者にとっては一部損失が発生します。これにより、事業の継続性を確保しつつ、再スタートを切ることができます。

まとめ;資金繰り改善計画を策定しましょう

以上で資金繰り改善のアプローチ観点を網羅的にお伝えしました。

これらをもとにまずは資金繰り改善計画を策定してみましょう。なお、資金繰り改善計画を策定する際は以下の5点に留意してください。

資金繰り改善5つの留意点

現状分析の徹底

現在の資金繰りの状況を正確に把握することが最優先です。上述した資金繰り表を用い、収入・支出のタイミングや金額を明確化します。特に、大きく資金を滞らせている要因があれば必ず特定し、対策します。

改善目標の設定

現実的かつ測定可能な改善目標を設定します。定量的な指標を用いることで、進捗状況を定期的に確認できます。
例: 「月間キャッシュフローを○○万円改善する」「返済額を半年以内に半減する」など。

実行可能な改善策の立案

本文で挙げたアプローチ方法から、具体的に実行可能な選択肢をピックアップします。その際は、短期的な改善策だけでなく、中長期的な改善策も検討し、これらのバランスを考慮します。

社内外のリソースを見極め、無理なく実行できる現実的な施策とすることが重要です。

ステークホルダーとの連携

金融機関、取引先、従業員など、関係者とのコミュニケーションを図ります。ただし、対金融機関へのアプローチは、必ず専門家の指導のもとに実施します。また、幹部従業員には計画内容を説明して巻き込み、積極的な協力を求める必要があります。一方で、従業員の士気が下がらないよう、注意が必要です。

定期的なモニタリングと修正

改善計画を定期的に見直し、進捗を確認します。資金繰り表を定期的に更新し、計画との乖離を把握します。必要に応じて、改善策を修正し、計画をブラッシュアップします。